メキシコの日本人移民を救った 馬場称徳さん
馬場家住宅を取材していた時、馬場称徳(ばば しょうとく)という人を初めて知りました。
調べ始めてみると・・・
1995年には、小説やドラマの主人公のモデルになり、2003年にはテレビ番組「世界ふしぎ発見!」でも取り上げられていました。
1995年に文藝春秋から丹羽昌一さんによって書かれた小説「天皇(エンペラドール)の密使」が刊行されました。
この小説の主人公のモデルは、馬場称徳さんだったのです。
第12回サントリーミステリー大賞・読者賞にも選ばれるほどの作品でした。
馬場称徳さんの甥にあたる馬場家第16代当主の馬場太郎さんが、著者の丹羽さんに連絡を取り、称徳さんがモデルになっていたことが明らかになりました。
その過程については、文庫版の解説に書かれています。
文庫版は、文春文庫から1998年に刊行されています。
2003年に放送された人気番組の「世界ふしぎ発見!」が、さらに、良書を生み出すきっかけになったようです。
当時、松本市にあった「郷土出版社」に一通のメールが届きました。
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先日、あるテレビ番組で、20世紀初頭のメキシコ革命下で日本人移民の救済に尽くした信州出身の外交官・馬場称徳を知り、松本深志高校の後輩として誇らしく感じました。
以前、『天皇(エンペラドール)の密使』(丹羽昌一著、1995年・文藝春秋)というミステリー小説のモデルとして紹介されたことがあるそうですが、いまだに正確な史実に基づく顕彰はなされていないようです。
このまま歴史の闇に埋もれさせてしまうには惜しい人物なので、この機会に地元の御社から評伝を出版して、その人となりを世に伝えていただけないでしょうか。
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メールを受け取った神津良子(こうづ よしこ)さんは、当初戸惑っていたようです。1世紀近くも前の外国での出来事であることと、本を書き上げるということは膨大なエネルギーを消費するため成し遂げられるのかと、思案していた様子が著書に書かれていました。
状況が好転し、着手し始めるとすぐに夢中になったとのこと。
そして、2004年に郷土出版社から「32歳の外交官・馬場称徳の軌跡 メキシコの月 信州の月」が刊行されました。
是非、ご自分で「32歳の外交官・馬場称徳の軌跡 メキシコの月 信州の月」を読んでいただきたいのですが、私が <このことは知ってほしい> と思ったことを簡単に書きます。
1914年(大正3年)称徳さんは、政府からの命令でメキシコ革命の混乱から日本人移民を救出するために派遣されました。本人の意思ではなかったのです。
現地の日本人をメキシコの内乱から救い出し、生活できる職を探してやることが任務でした。
称徳さんが現地メキシコで、情報収集していく中で、革命軍と早急に交渉しないことには日本人移民を救いだせないと判断して、何度も上司に報告相談しました。
革命軍はメキシコ政府と敵対していて、日本政府が革命軍を承認しているわけではない。日本政府として革命軍に接触・交渉することはできないので、政府に関係ない立場、つまり外交官としての資格を離れて交渉するならば良い、決して政府に悪影響が及ばないようにせよ との返答があったのです。
こんなことを言われ、称徳さんは外交官であることを隠して、単身で革命軍の一つのパンチョ・ビリャ将軍に面会したのです。
ビリャ軍の捕虜となっている日本人移民を救うために。
称徳さんの命がけの交渉の末に、ビリャ将軍は日本人の生命と財産を保証することを約束しました。
しかし、称徳さんは政府から褒められるどころか叱責されてしまうのです。
ビリャ将軍の前で正座した称徳さんの写真が現地の新聞に大きく掲載されていました。
日本からの『天皇の密使』による土下座交渉として書きたてられたことが政府に伝わっていたのです。
こんな状況で日本人移民を救いだし、さらにカリフォルニア州カレキシコの綿花栽培地へ集団移住を成し遂げたのです。
移住者の人数は、900人を超えていたそうです。
私の簡単な文章では、称徳さんのことは伝わらないと思うので、「32歳の外交官・馬場称徳の軌跡 メキシコの月 信州の月」を是非読んでください。
現在の馬場家第16代当主の馬場太郎さんの解説が24ページほどあります。
文庫版の「天皇(エンペラドール)の密使」に寄せた解説よりもさらに詳しく書かれています。こちらも必読です。
残念なことに郷土出版社はなくなってしまったので、本を買うことはできません。
図書館で本を借りてください。
兎にも角にも、大正時代にメキシコの日本人移民を救った外交官がいたことを知っていただきたいと思います。
称徳さんの存在に気づき小説にした丹羽昌一さん、テレビを見て称徳さんについて顕彰してほしいと依頼した方、称徳さんのことを調べて本にしてくれた神津良子さん、神津さんの取材に協力し解説も書いた馬場太郎さん、いろんな方のおかげで馬場称徳さんについて知ることができたことを大変ありがたく思います。
【市民記者 こばやし】