奥穂高岳 南稜登攀→扇沢~岳沢スキー滑降《残雪期》
上高地の河童橋から見える穂高連峰。その真ん中を奥穂高岳へと登る「南稜」という
ルートがあります。このルートは現在、アルパイン・クライミングのヴァリエーション
ルートとなっているのですが、その昔、上高地~穂高連峰を初めて海外に紹介した日本の
近代登山の父「ウォルター・ウェストン」さんが、最初に奥穂高岳に登ったときのルート
なのです!! そんな伝統と歴史のあるクラッシックなルートを、4月のまだ雪山の時期に
ミックスクライミングで登り、奥穂高岳に登頂して、真っ直ぐ「扇沢」から~岳沢へと
スキーでの滑降に挑戦してきました!
今回の記事では、こんなルートの岩場登山、こんな景色もあるのだと感じて頂ければ
嬉しいと思います・・・。
僕が、バックカントリースキーを初めて経験した時から。いや、この山を見た時から、
この奥穂高岳から真ん中に広がる扇子のような扇沢を滑る自分を、ず~っと憧れて夢見て
きたのでした・・・。そして、ここ数年秘かに狙っていた「奥穂高岳ワンデイBCスキー」・・・。
しかし、奥穂高岳のこの「扇沢」を滑るのには、かなりの条件が揃わないと滑れないのです。
完璧な晴れという気象条件はもちろん、斜面の雪質、雪崩の危険性、パートナーの条件など、
その全てが揃わないと挑戦することすら出来ないのでした・・・。去年から何回かチャンスを
伺がっていたのですが、天気が悪かったり雪の状況が悪かったりして、ここまで行く事が
できていなかったのでした・・・・。
しかし、今年は山に雪が少なかったのですが、雪質自体のコンディションは比較的良い
感じだったので、今年の4月にパートナーの人達みんなの休みが揃った晴れの日があり、
奥穂高岳へとクライミング&スキーに行ってみたのでした!
アクセス
松本市から~上高地へのアクセスは、「槍ヶ岳・槍沢コース」の記事を参照して下さい。
→「アクセス」
上高地~岳沢(2時間)
上高地の河童橋を渡って、右岸にある「岳沢登山口」から登り始めます。今年は本当に
雪の少ないシーズンで、例年の4月ならまだこの辺りは雪に埋まっているぐらいですが、
今年は岳沢登山口~岳沢の間には、全く雪がありませんでした・・・。なので、スキー道具
一式を全てバックパックに取り付けて担がなければならず、スタートからもうすでに
肩が痛くなっていました。
辿り着いた「岳沢小屋」も、雪に埋まっていなくて、半分ぐらい出ていました・・・。
岳沢~奥穂高岳山頂(7時間)
岳沢小屋を越えて、南稜の取り付きに向かいます。ここでアイゼン&ダブルアックスに
装備を持ち替えて、ハーネスにロープを繋いで確保し、そしてスキー道具一式を担いでの
クライミングになっていきます。ここからは、雪壁と岩のクライミングの世界なのです!
「南稜」ルートの取り付きから上を見上げると、「トリコニー」と呼ばれる、3つの三角形
の岩峰が並ぶ景色が見ることが出来ます。 この「トリコニー」は、通常の登山道からは
見ることができ無い景色なのです。
取り付きから出だしは、2ヵ所の凍った滝の部分を越えていく事になります。バック
には、岳沢から上高地、そしてその奥には「乗鞍岳」優美な姿が美しく見えていました。
その後は、南稜の「トリコニー」の3つの岩峰の一番右側を目指して進んでいくのです。
アイゼンを蹴り込んでアイスアックスを2本差し込む!といった作業を延々と繰り返して、
凍った雪の超急斜面を延々と登攀していきました。
登攀していくと、さらに雪の斜面はどんどん急になっていくのでした! この画像のような、
約65°から~70°ぐらいのセクションもありました・・・。 しかし、ここまで来てビビッても、
どうしょうもないのです。ここまで来たら行くしかないのです。 バックは前穂高岳です!
この前穂高岳のアミダくじのような雪の超急斜面が、厳しくも美しかったです!!
その後、岩場でのクライミングセクションになっていきました。この岩場セクションが、
この「南稜」ルートの核心部分になるようです。 夏場のクライミングなら簡単に感じる
かも知れませんが、この時の僕たちはスキーブーツにアイゼンの装備だったので、岩場の
セクションを登るのが、かなり難しく感じました・・・。
岩場セクションからリッジを抜けるところです。真ん中下側に居る僕たちが分かります
でしょうか? ここも複雑に積もった雪庇のような箇所を登って行くので、難しかった
です。 バックには、「明神岳1峰~2峰」が美しく聳えて見えていました。
時には、こんな両側が切れ落ちたリッジでのクライムダウンもあります・・・。
落ちたら終わり!という自分の中の恐怖感との戦いもあります・・・。
岩場のテクニカルなミックスクライミングのセクションを抜けて、また広い雪の斜面に
出ます。この後も、雪の急斜面を、ダブルアックスを差込みながら一歩一歩と確実に、
ただ上へと目指していきました。 標高3000mを越えると風が強くなってきて、気温も
またグッと下がってきました。マイナス気温で、雪面に刺すアックスを持つグローブが
凍り付いてきます・・・。
最後は斜面の傾斜も緩んで来たのですが、稜線が見えているのになかなか近づいて来ない
という、気分的に一番苦しい感じの歩きが続いていきました。 でも、ここまで来ると、
もうあと一息だと実感出来るので、落ち着いて一歩一歩確実に登っていったのでした・・・。
そして、ついに!、稜線上の吊尾根に上がり、「南稜の頭」に出たのでした!!
バックには「前穂高岳」や、「明神岳」が輝いて圧倒的な大迫力で見えていました。
ここからは、奥穂高岳の山頂の祠を見えるので、あと少しです。
これが「南稜の頭」の看板です。かつて、ウェストンさんが登りきった場所です。
壮大なクライミングルートです。 その昔、まだクライミングギアも発達して
いない時代に、このルートで奥穂高岳に登ったという事に、ただただ関心して
しまいました・・・。
そして!、ついに、奥穂高岳の山頂に到着しました!!
釜トンネルをスタートして、全てヒューマンパワーで、スキーとクライミングで登り、
奥穂高岳「南稜」ルートを、10時間と少しで、登頂に成功できました!
奥穂高岳山頂からの景色です。
「乗鞍岳」(3026m)
「乗鞍岳」は、相変わらスムーズで優美な曲線をまとった、まさに山スキーのための
山だと、改めて思いました。 岳沢から~奥穂高岳に上がる「南稜」ルートからは、
どこからでも「乗鞍岳」が正面にド~ンと大きく、そして美しく見えるのです。そして
一番下に見えるのが、上高地の大正池です。僕達は、その向こうの釜トンネルから、
全てヒューマンパワーでここまで来たのです。
「前穂高岳」(3090m)
雪をまとった4月の「前穂高岳」も、奥穂高岳山頂から見ると比較的距離が近いので
凄まじいほどの大迫力で、壁のように切れ落ちている感じなのでした!
「槍ヶ岳」(3180m)
遠くには、しっかりと「槍ヶ岳」も見えました。 でも、やはり「槍ヶ岳」は冬でも
雪で白くはならなくて、穂先は黒いままなのでした・・・。
奥穂高岳山頂から、扇沢~岳沢、スキー滑降(1時間)
ここからが僕たちの目的である「扇沢」のスキー滑降が始まります。目を閉じて集中し、
息を吸い込んで、胸に手を当てて、生きて帰る!と言い聞かせて、スタートしました。
奥穂高岳山頂から~扇沢は、最初は広大なオープンバーンです。しかし、斜面の斜度は、
滑り始めてからスグに超急斜面となっていくのです!
扇沢のスキー滑降の核心は、この60°近い(?)超急斜面の岩の間を滑る斜面なのです!
ここは普通にターン出来ない程の超急斜面なのと、コケたら確実に死んでしまうので
安全にジャンプターンを繰り返して高度を下げて行きました。
この斜面に挑戦出来る幸せと、ここまで来れた幸せと、そして一緒に来ることが出来る
仲間がいることへの感謝が!、この扇沢の超急斜面でのターンを洗練させてくれました。
後半は、狭い岩場の回廊のような「ゴルジュ」セクションになっていくのでした・・・。
一気に狭くなってしまうのですが、斜度は変わらずかなり急斜面なのと、雪崩の跡の
デブリでボコボコになっているのです。 でも一番懸念されるのは、最後まで斜面に
雪が繋がっているのかどうか?でした。 雪が無くなってしまうと、ロープを使って
スキーを外して懸垂下降しなければなりません。
でも、下部の一番狭くなっている「ノド」の部分では、雪がギリギリ2mほどで繋がって
いたのでした~!! ここをスキーを脱がずに抜けられた時点で、僕達の扇沢~岳沢
繋げてのスキー滑降が成功すると、確信が心の中に湧いてきたのでした!
狭い岩の間のセクションを抜けて、岳沢小屋に無事に帰ってこれた瞬間!、僕たちの
「奥穂高岳、南稜クライミング→扇沢~岳沢BCスキー滑降」が成功したのでした!!
そして、その後は岳沢の緩斜面を、雪が無くなるところまで快適にユルく滑って帰って
いったのでした。
夢は、想い続けて、精一杯努力して、叶えるモノである。
夢は、その瞬間に儚くも僕たちをすり抜けて去って行く。
そして夢は、また新たに僕たちの中に、さらに大きくなって
現れて、僕たちを何処かへ連れて行くのだろう・・・。
僕たちは、その新たな夢に向かって進んで行くのであった。
【注意!】今回の「残雪期、奥穂高岳・南稜クライミング、扇沢~岳沢スキー滑降。」は、
冬山登攀のアルパインクライミング的なので、冬山登山に慣れているクライミングギアが
取り扱えるエキスパートの方のみが行くことが出来るルートです。ピッケルとアイゼンを
使いこなすスキルが必要ですし、冬山での行動や、マイナス10℃以下の中での体温管理も
たいへんで非常に厳しいです・・・。もし、この「奥穂高岳・南稜ルート」に行ってみたいと
思われる方は、必ず!冬山登山が出来る専門の山岳ガイドさんと一緒に行って下さい。
くれごれも、よろしくお願いします。
【登山者・記事 ハタゴニアン】