19世紀末にデンマークで生まれ、常に独創的で革新的な作品を生み出しながら、一貫して人間、特に女性の心の真髄をフィルムで捉え続けた、世界映画史が誇る孤高の映画作家カール・テオドア・ドライヤー。 ジャン=リュック・ゴダール、フランソワ・トリュフォー、イングマール・ベルイマンなどの巨匠たちからアルノ―・デプレシャン、ギャスパー・ノエといった現代の先鋭たちにまで多大なる影響を与え世代を超え敬愛されています。
大戦が二度起き変革の渦中の時代にあっても粛々と映画制作に情熱を注ぎ、79年の生涯で長編14作品を発表。被写体を見つめ、モノクロームの世界を巧みに操り、新たな映画芸術の可能性を示し続けてきました。
今回は、ゴダールが『女と男のいる舗道』で引用したことでも有名な『裁かるゝジャンヌ』とドライヤー後期3作品がデジタルリマスタリングされ、スクリーンに甦ります。映像表現のアプローチに多様な顔を持つドライヤー作品をとくとご堪能ください。
4月24日10:30~ 松本市Mウイング
裁かるゝジャンヌ
前売券は下記から
監督・脚本・編集 カール・テオドア・ドライヤー
歴史考証:ピエール・シャンピオン 撮影:ルドルフ・マテ
出演:ルネ・ファルコネッティ/アントナン・アルトー
1928年/フランス/モノクロ/スタンダード/ステレオ/97分/2Kレストア ©1928 Gaumont]
百年戦争で祖国オルレアンの地を解放に導いたジャンヌ・ダルクは、敵国イングランドに連れてこられ異端審問を受けることになる。足枷を付けさせられ裁判所の大広間に入り、ずらりと一堂に会した司教たちからのきつい尋問が始まる。ジャンヌは心身ともに衰弱し、拷問室でさらに厳しい強迫を受け気絶してしまう。衰弱しきり死への恐怖から司教たちに屈しそうになるが、神への信仰を思い出し、自ら火刑に処される道を選び処刑台へと歩いていく。
実際の裁判の記録である古文書をもとに、クローズアップを大胆に多用し“人間”ジャンヌ・ダルクを活写、ドライヤーの名を世界に知らしめ後世に語り継がれる無声映画の金字塔的作品。
今回の素材は2015年にCNCの支援を受けてゴーモン社によってデジタル修復されたもの。なお伴奏音楽は、ボーランド出身で現在はフランスを中心に活動し、名実ともに今最も注目されているオルガン奏者の一人、カロル・モサコフスキによって作曲され、2016年にリヨン国立管弦楽団のコンサートホール「Auditorium」のオルガンで演奏、録音された。
4月24日13:00~ 松本市Mウイング
奇跡
前売券は下記から
監督・脚本:カール・テオドア・ドライヤー
原作:カイ・ムンク 撮影:ヘニング・ベンツセン 舞台美術:エーリック・オース
出演:ヘンリック・マルベア、 エーミール・ハス・クリステンセン
1954年/デンマーク/モノクロ/スタンダード/デンマーク語/モノラル/
126分/2Kレストア©Danish Film Institute
【1955年ヴェネチア国際映画祭 金獅子賞
1956年ゴールデングローブ賞 最優秀外国語映画賞】
20世紀前半のデンマーク・ユトランド半島に敬虔なクリスチャンのボーオン一家が、厳格な父親モーテンを筆頭に三人の息子、そして長男の家族と共に暮らしていた。長男ミッケルには妻インガーと子どもが2人おり、インガーは3人目を妊娠中だ。次男のヨハンネスは自らをキリストだと信じ、精神的に不安定な状態が長い。三男アナスは仕立て屋の娘に恋をしているが、父モーテンと対立する宗派の家のため父は良く思っていない。ある日、インガーが産気づくがお産は上手くいかず、子供を死産したのち自身の容態も悪化してしまい、帰らぬ人に。家族が悲しみに暮れるなか、次男ヨハンネスが失踪してしまう。しかしインガーの葬儀に、正気を取り戻した姿で突如現れるのであった…。演劇的目線で家族の葛藤と信仰の真髄を問うドライヤーの代表作であり傑作。
4月24日15:20~ 松本市Mウイング
怒りの日
前売券は下記よりhttps://teket.jp/1841/11711
監督・脚本 カール・テオドア・ドライヤー
原作:ハンス・ヴィアス=イェンセン 撮影:カール・アンデルジョン
時代考証:カイ・ウルダル
出演:リスベト・モーヴィン、 トーキル・ローセ
1943年/デンマーク/モノクロ/スタンダード/デンマーク語/モノラル/97分/デジタルリマスター
©Danish Film Institute
【1974年ヴェネチア国際映画祭 審査員特別表彰】
中世ノルウェーの村に、牧師アプサロンと若き後妻アンネの夫婦が平穏に暮らしていた。一方で、同じ村にいた老女ヘアロフス・マーテが魔女とされ火刑に処されることに。彼女は牧師アプサロンの弱みを握っていた…。ある日、アプサロンの前妻との一人息子マーチンが神学の勉強を終えて帰郷する。アンネはたちまちマーチンに惹かれ二人は親密な関係に。そんな折、アンネが発した言葉にショックを受けたアプサロンが急死してしまい、アンネが魔女として死に至らしめたと告発を受けてしまう…。陰影を巧みに使ったモノクロームの映像美で、魔女狩りが横行する時代の複雑に絡み合う関係性を映した衝撃作。
1943年11月13日にドイツ占領下のデンマークで封切られた。それ故かスタッフ・キャスト名はおろか、自分の監督名さえクレジットされていない。
4月29日 10:00~ まつもと市民芸術館小ホール
ゲアトルーズ
前売券は下記
監督・脚本:カール・テオドア・ドライヤー
原作:ヤルマール・セーデルベルイ 舞台美術:カイ・ラーシュ
衣装:ベーリット・ニュキェア
出演:ニーナ・ペンス・ロゼ / ベンツ・ローテ
1964年/デンマーク/モノクロ/ ヴィスタ/デンマーク語/モノラル/118分/ 2Kレストア ©Danish Film Institute
【1965年ヴェネチア国際映画祭 国際映画批評家連盟賞】
著名な弁護士カニングの妻であるゲアトルーズは、夫との結婚生活に不満を抱いている。二人の間に愛はなく、ゲアトルーズは若き作曲家エアランと恋愛関係にある。ある日、彼女の元恋人であり著名な詩人ガブリエルが帰国し祝賀会が催されるが、ゲアトルーズは体調を悪くし席を立つ。その後、エアランの伴奏で歌唱するも卒倒してしまう。翌日エアランが自分を愛していないことを知り、彼との関係を断ち、夫のもとからも去るゲアトルーズ。愛を探し求め続けたゲアトルーズの姿を完璧な様式美の画面におさめ会話劇に徹したドライヤー遺作にして集大成的作品。
『ゲアトルーズ』は「シネマテーク・フランセーズ(Cinémathèque française)」2004年開催のレトロスペクティヴ「レオス・カラックスへの白紙委任状(カルト・ブランシュ/carte blanche)」という企画上映でレオス・カラックス監督が自作以外の15本のうちの1本に選出しました。松本では『アネット』と同日上映。