彼は彼自身のバウルを探している。
中川彰さんの写真を丹念に読み込むと、そう思えてくる。彼が旅の途中でカメラを向けているのは、ほとんどが名もなき市井のひとびとやベンガル風景。ダッカの雑踏、祭りに集まる男女たち、農村の風景、大河のそばで暮らす民。そこにこそバウルがいる、と言わんばかりにシャッターを切っているように見える。
バウルは確かに、山河に隠れる仙人ではない。
この美しい世界で私は死にたくない
ひとびとに混じって私は生きていきたい
バウルから多大な影響を受けて詩歌をつくった、ラビンドラナート・タゴールの詩である。
書籍『タゴール・ソングス』(佐々木美佳 著/三輪舎 刊)出版を記念して、ベンガル出身でアジア初のノーベル賞を受賞した「詩聖」タゴールと、その詩歌に大きな影響を与えたベンガル伝統の歌い人「バウル」を特集します。
2020年に公開され、本書のもととなった映画『タゴール・ソングス』は、ベンガルの人々のあいだでいまだ愛され、歌われるタゴール・ソング(タゴールが作詞作曲した歌)の歌い手を追ったドキュメンタリーフィルムです。ストリート・チルドレンからシンガーを目指す青年ナイーム、タゴールの詩を通して未来を見据える女子大学生オノンナ、革命を志しながらも挫折し、タゴール・ソングを道しるべに生きてそれを弟子に伝える教師オミテーシュ。――今回の展示では映画作品から切り出した印象的なカットとともにタゴールの珠玉の詩歌を紹介します。
そして、タゴールの創作に大きな影響を与えた歌い人・バウル。その謎めいた存在を追った『バウルを探して〈完全版〉』の共著者で、ノンフィクション作家の川内有緒さんとともにバングラデシュを旅した写真家、中川彰さん(2012年に逝去)による写真を展示します。
書籍『タゴール・ソングス』の著者・佐々木美佳さんと、『バウルを探して』著者でノンフィクション作家の川内有緒さんのおふたりに、「タゴールとバウル」をテーマにお話を伺います。
- 日時・・・2022年3月19日(土)16:45開場 17:00開始〜
- 会場・・・栞日2F
川内有緒
ノンフィクション作家。1972年東京都生まれ。映画監督を目指して日本大学芸術学部へ進学したものの、あっさりとその道を断念。行き当たりばったりに渡米したあと、中南米のカルチャーに魅せられ、米国ジョージタウン大学で中南米地域研究学修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏のユネスコ本部などに勤務し、国際協力分野で12年間働く。2010年以降は東京を拠点に評伝、旅行記、エッセイなどの執筆を行う。『バウルを探して〈完全版〉』(三輪舎)、『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』(集英社インターナショナル)。白鳥建二さんを追ったドキュメンタリー映画『白い鳥』の共同監督。
佐々木美佳
映像作家、文筆家。1993年、福井県生まれ。東京外国語大学言語文化学部ヒンディー語学科卒業。2020年、ベンガル人のあいだで愛されている、タゴールが作詞・作曲した歌〈タゴール・ソング〉を探しにいくドキュメンタリー映画『タゴール・ソングス』で監督デビュー。2022年にはダッカ国際映画祭に出品。次回作は、日本に住む南アジア出身者がつくるカレーを題材にした長編映画と、タゴールとゆかりのある原三溪と三溪園をテーマにした短編『三溪の影(仮)』を準備
映画『タゴール・ソングス』が「まつもと市民芸術館小ホール」で3.19に上映!
*情報・画像は公式サイトより頂きました。